projection-ai:blog のライター・寄稿者を募集しております。

SaaS起業家のためのBurn Multiple完全ガイド

目次

    はじめに

    SaaSスタートアップを取り巻く資金調達環境は、ここ数年で大きく変化しました。投資家はかつてのような「成長第一主義」ではなく、効率的な資金運用を重視するようになり、資金調達がより慎重になっています。このような背景から、スタートアップの健全性を測る指標として、Burn Multiple(バーンマルチプル)が注目されています。

    Burn Multipleとは?
    バーンマルチプルとは、企業が新たに生み出したARRを獲得するために、どれだけの資金を消費したかを示す指標です。この数字が低いほど、企業が資金を効率的に使って成長していることを意味します。特に、成長段階にあるSaaS企業において、資本効率を評価する上で欠かせない指標となっています。

    この記事で得られること
    本記事では、バーンマルチプルの計算方法や目安、効率的に改善するための戦略、さらに他の重要指標との関連性について解説します。これを読むことで、自社の成長効率を見直し、投資家やステークホルダーに信頼される事業運営の道筋を描けるようになります。

    1. Burn Multipleの定義と計算方法

    バーンマルチプルとは、スタートアップが新たにARRを生み出すために、どれだけの資金を消費したかを示す指標です。この指標は、資金効率を測ることで、企業の財務健全性と成長性を評価するために使用されます。

    計算式
    バーンマルチプルは以下の計算式で求められます。
    バーンマルチプル = 純資金消費額 ÷ 純ARR増加額

    • 純資金消費額(Net Burn):一定期間内の現金支出額から、投資や外部調達による収入を差し引いたもの。
    • 純ARR増加額(Net New ARR):一定期間内に増加した年間経常収益額。



    例えば、あるSaaS企業が1か月で100万円の現金を消費し、同じ期間にARRを40万円増加させた場合、そのバーンマルチプルは次のようになります:
    100万円 ÷ 40万円 = 2.5
    この場合、ARR1円を増加させるために2.5円の資金を消費していることを意味します。

    ※ バーンマルチプルは、すでにARRを獲得している企業に適用される指標です。まだ収益が発生していないスタートアップには適用できない点に注意してください。

    2. Burn Multipleの目安と解釈

    Burn Multipleを計算したら、次にその数値が何を意味するのかを理解する必要があります。ここでは、Burn Multipleの一般的な目安と、その数値が示す企業の状況について解説します。

    目安となる数値
    Burn Multipleの目安は、ベンチャーキャピタルのBessemer Venture Partnersが提唱する指標が広く参考にされています。彼らの基準によると、Burn Multipleは以下のように解釈されます。

    • 1未満:極めて効率的。 投資した資金を大きく上回るARRを創出できており、理想的な状態。
    • 1~1.5:非常に良い。 資金効率が良く、健全な成長を遂げている。
    • 1.5~2:良い。 成長に向けて投資を行っている段階だが、注意深くモニタリングすべき水準。
    • 2~3:資金消費がやや大きい。投資に対して十分なARRを生み出せておらず、ビジネスモデルや成長戦略の見直しが必要な可能性が高い。
    • 3以上:要改善。 早急に対策が必要。


    数値が示す状況
    Burn Multipleは、数値が低いほど効率的に成長していることを示します。

    • Burn Multipleが低い (1未満) 企業は、少ない投資で大きなリターンを生み出しています。これは、プロダクトマーケットフィット(PMF)を達成し、顧客獲得コストを抑えながら、効果的に事業を拡大できていることを意味します。
    • Burn Multipleが高い (2以上) 企業は、成長のために多額の資金を投じているにもかかわらず、十分なARRを獲得できていません。これは、営業・マーケティング活動の効率が悪い、顧客獲得単価(CAC)が高い、チャーンレートが高い、プロダクトの価値が十分に市場に受け入れられていない、などの課題を抱えている可能性があります。


    注意すべき点
    Burn Multipleは、SaaS企業の成長効率を測る有用な指標ですが、あくまでも一つの指標に過ぎません。企業の状況を正しく評価するためには、他の指標と組み合わせて総合的に判断することが重要です。また、効率が良くても成長が鈍化している場合は評価が分かれる可能性があります。

    成長ステージによる違い
    Burn Multipleの目安は、企業の成長ステージによっても異なります。

    • シード期: プロダクト開発や初期の市場開拓に注力する段階のため、Burn Multipleが高くなる傾向があります。この時期は、将来の成長に向けた先行投資の段階と捉え、一定のバーンは許容されることも多いです。ただし、あまりにも高い場合は、プロダクトや市場戦略の見直しが必要です。
    • アーリー期 (シリーズA前後): PMFを達成し、事業を本格的に拡大するフェーズです。投資が先行しつつも、徐々にBurn Multipleを改善していくことが求められます。Bessemer Venture Partnersの基準を目安に、1.5未満を目指しましょう。
    • ミドル~レイターステージ (シリーズB以降): 事業が成熟し、より効率的な成長が求められる段階です。Burn Multipleは1未満、もしくはそれに近い水準であることが理想的です。


    3. Burn Multipleを改善するための戦略

    Burn Multipleが高い、または改善したい場合、Net Burn(コスト)を削減するか、Net New ARR(収益)を増やすかのいずれか、または両方のアプローチが必要です。ここでは、具体的な戦略を解説します。

    Net Burnを削減する方法

    • コスト最適化:クラウドコストの見直し: AWSやAzureなどのクラウドサービスの利用状況を精査し、無駄なリソースを削減します。リザーブドインスタンスの活用なども有効です。
    • 不要なサブスクリプションの解約: 利用頻度の低いSaaSツールの契約を見直しましょう。
    • 業務効率化ツールの導入: RPA(Robotic Process Automation)などを活用し、業務を自動化することで人件費を削減します。
    • 広告費用の最適化: 各広告媒体の費用対効果を分析し、無駄な広告出稿を削減。より効果的な媒体やターゲティングに絞って広告費用を投下します。
    • オフィスコストの見直し: リモートワークの導入やオフィスの縮小・移転により、賃料や光熱費を削減します。
    • 採用計画の見直し:採用の厳選: 本当に必要なポジションを精査し、採用基準を明確化することで、人件費の増加を抑えます。
    • 採用時期の最適化: 採用活動のタイミングを、事業の成長予測に合わせてコントロールします。
    • アウトソーシングの活用: ノンコア業務は外部に委託することで、正社員の採用を抑えます。


    Net New ARRを増やす方法

    • 営業・マーケティング戦略の強化:ターゲット顧客の明確化: 理想的な顧客プロファイル(ICP)を定義し、マーケティング・営業活動の精度を高めます。
    • リード獲得の強化: SEO対策、コンテンツマーケティング、ウェビナー開催、展示会出展など、多様なチャネルを活用して見込み顧客を獲得します。
    • インサイドセールスの強化: 見込み顧客の育成(リードナーチャリング)を強化し、商談化率・受注率を向上させます。
    • 営業資料の改善: 営業資料をブラッシュアップし、製品の価値を効果的に伝え、顧客の意思決定を後押しします。
    • 価格戦略の最適化:バリューベースの価格設定: プロダクトが顧客に提供する価値に基づいて価格を設定します。
    • 価格体系の見直し: 顧客のニーズや利用状況に合わせて、複数の料金プランを用意します。
    • アップセル・クロスセルの促進: 既存顧客に対し、上位プランや追加機能の利用を促します。
    • プロダクトの改善:顧客フィードバックの収集: 顧客の声に耳を傾け、プロダクトの改善に活かします。
    • 機能開発ロードマップの策定: 顧客ニーズに基づいた機能開発の優先順位を明確化します。
    • UI/UXの向上: ユーザーにとって使いやすいプロダクトデザインを追求します。
    • カスタマーサクセスの強化:オンボーディングの充実: 新規顧客が早期にプロダクトの価値を実感できるよう、導入支援を強化します。
    • プロアクティブなサポート: 顧客の課題を先回りして解決し、満足度を高めます。
    • 解約兆候の早期発見: 顧客の利用状況をモニタリングし、解約リスクのある顧客を早期に特定します。
    • コミュニティの構築: ユーザー同士が情報交換やノウハウ共有ができる場を提供し、顧客ロイヤルティを高めます。


    事例紹介
    Burn Multipleの改善に成功した企業の事例を紹介します。

    • 企業A: クラウドコストの最適化と採用計画の見直しにより、Net Burnを20%削減。同時に、営業・マーケティング戦略の強化とカスタマーサクセスの強化により、Net New ARRを30%増加させ、Burn Multipleを大幅に改善しました。
    • 企業B: プロダクトのUI/UXを大幅に改善した結果、顧客満足度が向上し、解約率が低下。さらに、アップセル・クロスセルも促進され、Net New ARRが大幅に増加しました。


    4. Burn Multipleと他の重要指標との関係

    Burn Multipleは、他のSaaS重要指標と密接に関連しています。ここでは、代表的な指標との関係性を解説します。

    • LTV/CAC(顧客生涯価値/顧客獲得コスト): LTV/CACは、顧客から得られる生涯収益と顧客獲得にかかるコストの比率を示します。Burn Multipleが低い企業は、効率的に顧客を獲得し、収益を上げているため、LTV/CACも高くなる傾向があります。
    • Rule of 40(40%ルール): 成長率と利益率の合計が40%以上であるべきという指標です。Burn Multipleが低い企業は、効率的に成長しているため、Rule of 40を達成しやすくなります。
    • Magic Number: 営業とマーケティングの効率性を示す指標です。計算式は (当四半期のARR増加額 x 4) ÷ 前四半期の営業・マーケティング費用 です。Burn Multipleが低い企業は、営業とマーケティングの効率性が高く、Magic Numberも高くなる傾向があります。
    • Churn Rate(解約率): 顧客がサービスを解約する割合です。通常、高いChurn Rateは低いARR成長率と高いBurn Multipleにつながります。

    これらの指標を総合的に分析することで、SaaSビジネスの健全性をより正確に把握できます。

    まとめ

    本記事では、SaaS起業家にとって重要な指標であるBurn Multipleについて、定義、計算方法、目安、改善戦略、そして他の指標との関係性まで、幅広く解説してきました。

    ネクストアクション

    • まずは自社のBurn Multipleを計算してみましょう。
    • 計算結果を基に、本記事で紹介した改善戦略を実行に移しましょう。
    • 定期的にBurn Multipleをモニタリングし、必要に応じて戦略を修正しましょう。


    projection-aiでは、Burn Multipleを自動で計算することができます。
    7日間のトライアルを実施しておりますので、下記よりご連絡ください!


    関連記事

    メーリングリストへ登録する

    本ブログの記事やイベントのご案内、その他 projection-ai に関するご案内をさせていただきます。
    尚、登録することにより弊社 プライバシーポリシー へ同意することとなります。