経済情報プラットフォーム「SPEEDA」やABMツール「FORCAS」などを提供するユーザベースが、8月5日(木)にFY21.2Qの決算発表を行った。IR資料および決算説明会をもとにその内容を解説する。
30%超の成長が続く
2Qの売上高は前年比+33%の39億円、EBITDAは6億円となった(今回より事業撤退したQuartz事業を除いて開示している)。
売上の進捗率は50%と例年(40〜42%)よりも高く、EBITDAはすでに80%の進捗となっている。営業利益も89%の進捗率となっているが、下期に投資を加速させていくと言い、上方修正などは行っていない。
SaaSで重要となるARR(年間経常収益)は、前年比+19%の111億円となった。内訳はSPEEDAが61.4億円(前年比+18%)、NewsPicksが30.2億円(前年比+10%)、その他B2B(FORCAS ,INITIAL)が19.3億円(前年比+43%)となった。
SPEEDAは回復基調へ
多くのプロダクトを手がけている同社だが、ここからは事業毎に決算内容を見ていく。
祖業とも言えるSPEEDAのMRRは前年比+18%の5.1億円となった。コロナの影響を受けて成長が鈍化していたが、回復基調にあることがわかる。
解約率(Gross Revenue Churn Rate)は1.3%と横ばいとなっている。コロナの影響を受けて解約率が上昇傾向にあったが、カスタマーサクセスを強化したことで、現在は低下傾向にあるとのこと。年内には1%を目指していると言う。
SPEEDAでは、ミーミル社を買収して新たにエキスパートリサーチを開始している。エキスパートリサーチとは、現役の経営者やコンサルタント、アナリストなど、1万名を超えるエキスパートへ質問・インタビューすることで、SPEEDAでは得られない知見が手に入るサービスだ。いわば、SPEEDAのハイエンドなプロフェッショナルサービスといったところだろう。
FY20.2Qに開始したエキスパートリサーチは立ち上げが順調に進んでおり、SPEEDAの成長に寄与している。しかし、同サービスの2Q売上高は1Qを下回る形となった。これは、1Qに売上高が偏ったことが要因で、影響は一時的なものだという。
現在、SPEEDAのEBITDAマージンは35.6%だが、今後はエキスパートリサーチへ投資していくため30%程度が目安になるという。
今回より初めてSPEEDAの顧客数および顧客単価を開示している。現在の顧客数は1,764社(YoY+8.6%)、顧客単価は32万円(YoY+14%)といずれも上昇傾向となっている。
今後はSPEEDAの顧客基盤を活用して、FORCASやINITIALなどのクロスセルを図っていく。また、エキスパートリサーチをはじめとする新たなサービス展開を通じて顧客単価を高めていく予定だ。
FORCASの成長が全体の牽引役に
FORCASのMRRは、前年比+43%の1.2億円となり、順調に成長していることがわかる。こちらもコロナの影響を受けて、昨年は成長が鈍化していたが、再び成長の軌道に乗ったようだ。
セールスにおけるリサーチ業務を効率化する「FORCAS Sales」の立ち上げにも注力しており、決算説明会では佐久間CEOが熱い意気込みを語った。FORCAS Salesへ積極的に投資したことにより、その他B2B事業におけるEBITDAは -1,000万円と前年よりも減少している。
未上場企業データベース「INITIAL」では7月4日、海外スタートアップDB「Crunchbase」との提携を発表した。同社と提携することで、これまで閲覧できなかった海外スタートアップの情報がINITIALから閲覧できるようになる。
INITIALを足し合わせたその他B2B事業全体の売上高は、前年比+45%の4.9億円となった。こちらの事業ドメインは、同社の成長を加速させる鍵を握っているため、今後も注目をしていきたい。
NewsPicksは前年の反動を受け成長が減速
本ブログではB2B SaaSを中心に取り上げているが、今回はC向けサブスクリプションサービスについても触れていく。
お馴染みの経済ニュースメディア「NewsPicks」のMRRは、前年比+10%の2.5億円と成長が鈍化した。
これは前年に大量の顧客獲得をした反動を受けたものだと説明している。昨年はコロナ禍において、信頼性の高いメディアとしてNewsPicks有料会員が急増した。
広告事業に関しては、前年比+51%の7.1億円となっており、引き続き高い成長を維持している。GAFA、TwitterをはじめとしたSNS企業の業績にみられるように、マーケティング費用がオンライン広告へシフトしており、同社にも追い風が吹いている。しかし、日本でもワクチンの接種が進んでいることから、その恩恵がいつまで受けられるかは未知数だ。
上で述べた有料課金事業、広告事業にその他事業の売上高を加えたNewsPicks全体の売上高は、前年比+41%の17.7億円と高い成長率を継続している。
EBITDAは8,900万円、EBITDAマージンは5.1%となっているが、広告事業は季節性や投資のタイミングもあるため、通年を通して利益は拡大させていくとしている。
NewsPicksの課題の1つとしては、認知率が大手経済メディアと比較して高くないということだ。同社がリサーチ会社を通じて行った調査では、NewsPicksの認知率は39%に留まっており、大手新聞社は91%と約2.3倍の上昇余地があるとしている。
そんな中、7月19日にリリースしたのがNTTドコモと共同開発した「NewsPicks+d」だ。全国のドコモ法人会員向けにサービスを展開していく。日本企業が取り組むDXやドコモが深い知見を持つIT・5G関連のコンテンツを提供することで、既存のNewsPicksとの差別化を図る。
©︎Google
8月5日時点で同社の時価総額は822億円、ARRマルチプルは7.7倍とSaaS企業の中央値(16倍)と比較すると決して高いとは言えない。
マーケットから評価されるためには、継続的に30%超の成長を示すことが必要となるが、どのような成長戦略を描き、実行していくのか今後も目が離せない。
Written by kakeru miyoshi(@saas_penguin)
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