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クラウド入退室管理システム「Akerun」を提供するPhotosynthがIPO

目次

    11月5日(金)、スマートロック「Akerun」を提供するPhotosynth社が新規上場を果たした。初値時価総額は214.8億円と公開価格を6%下回った。

    同日公開された「事業計画及び成長可能性に関する事項」から、同社の成長戦略を読み解いていきたい。

    N:NからN:1の世界へ

    同社の設立は2014年。共同創業者の河瀬氏はガイアックスに入社し、ソーシャルメディアマーケティング事業などを担当。同じく共同創業者の渡邉氏は、ソフトバンクで法人営業やPayPalとの合弁事業を立ち上げた。

    外部株主には、グロービス・キャピタル・パートナーズやジャフコなどの独立系VCに加え、三井不動産やLINEなどの事業会社なども加わっている。
    同社は「世界から、鍵をなくそう。」というビジョンを掲げ、プロダクトの開発・提供を行っている。人々が行き来する場所やコミュニティの数だけ、持ち歩く鍵やカードが増え、施錠・解錠の回数も増加する。

    そのようにストレスが増えつつある世界を面白くする ”カギ” は、鍵をなくすことだという。テクノロジーを駆使して、個人を見分けることで自動で開閉するAkerunを提供。

    物理キーをなくし、これまで「N:N」だったものを「N:1」にすることで、ストレスのない生活を実現するといったものだ。

    ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたクラウド型入退室管理システム

    Akerunは、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた「HESaaS(Hardware Enabled Software as a Service)」なるものを提供する。既存の扉に設置するだけで、スマートフォンや交通系ICカードなどを使って、鍵の開け閉めが可能となる。工事が不要なため、簡単に取り付けられるのが特徴の1つだ。

    freeeをはじめとした外部の勤怠管理システムとも連携できるため、勤怠のつけ忘れを防止することもできる。また、顔認証システムとの連携もできるため、よりセキュアな入退室管理ができる。

    エリアや人、部署毎に時間限定の鍵を発行するできる機能などもある。また、入退室をリアルタイムで管理することができるため、(無断での)休日出勤や不審者の入室なども早期検知することができる。

    ARRは13.7億円、今期は30%成長を目指す

    同社のARR(6月時点)は13.7億円と、開示している上場SaaS企業の中では最もARRの規模が小さい。2016年から2020年までのCAGRは129%と急成長しており、今期は30%程度の成長率を見込んでいる。

    前期の売上総利益率は82%、サブスクリプション売上比率は90%となっており、ハードウェアを扱っているにも関わらず、高い水準をキープしている。

    Churn Rate(Gross Revenue)は1.5%と健全な水準となっている(ただし、コロナの影響を除いた数値となっている)。

    6月時点での顧客数は3,700社以上。導入企業を見ると、野村不動産やキリンHD、ZOZOなど、名だたる企業が導入している。

    アカウント登録数(3月時点)は91万人以上、1日あたりの開閉回数は98万回となっている。起点が異なるものの、単純計算すると1社あたり246名のユーザーを抱え、1社あたりの開閉数は1日265回となる。

    サテライトオフィスなど、新しいワークスタイルの需要を取り込めるかが成長の鍵

    同社はどのようなターゲットに対して、どのようなソリューションを提供しているのか。

    「Akerun Pro」は主に中規模オフィスをターゲットとしている。背景には、改正個人情報保護法により、中小企業での入退室管理のニーズが急増していることが挙げられる。

    しかし、従来のオンプレ型スマートロックは高価なため、クラウド型のAkerunが支持されているというわけだ。

    一方、大企業は大手メーカーが提供する工事が必要なオンプレモデルを利用しているという。それに対して、同社の「Akerunコントローラー」は無線通信なため、電気工事技士が不要となる。加えて、クラウド型なのでSlerも不要かつアップデートもリアルタイムに実施することができる。

    また、1月には国内最大手錠前メーカーのMIWA社と提携。今後は家庭向け市場も開拓していく予定だ。確かに住宅は大多数が物理キーを利用している。そのため、市場の開拓余地は大きいが、競合も多く、どのように差別化するかが重要となりそうだ。
    オフィス・商業施設 / 認証マーケットにおけるSAMは4.5兆円。そこに住宅市場を足したTAMは6.4兆円と同社は見積もっている。また、今後はキーレスプラットフォームによる認証・データ市場によって、マーケットをより拡大をさせていく予定だ。

    当たり前だが、MRRを拡大させるためには、顧客数と顧客単価を増加させていく必要がある。

    顧客数の増加をするべく、SMBからエンタープライズへの拡張、全国展開、不動産企業をはじめとした企業とのパートナーシップ推進を掲げている。

    また、顧客単価の拡大においては、1社あたりの導入台数の拡大、契約あたりの拠点・空間の利用推進を掲げている。いわゆる「Land&Expand」と呼ばれる戦略だ。また、勤怠管理システムや来訪管理システムなど、周辺領域におけるソリューションを提案することで、クロスセルも積極的に行っている。

    MRRを拡大させるべく、人材にも投資をするとしている。昨年度は111名だった従業員を、今年度に186名まで大幅に増やす方針だ。人員を増やすことで、地方拠点の活用、販売パートナーを支援する専任チームを強化する方針だ。

    今期の売上高は前年比+28.5%の15.1億円、営業損益は-10.3億円を見込んでいる。サブスクリプションビジネスであるため、積極的に先行投資を行っていく予定だ。

    パンデミックによりリモートワークが普及したが、新規感染者数の減少に伴い、徐々にオフィスに人が戻りつつある。また、オフィスだけでなく、自宅や好きな場所で働ける「ハイブリッド型」のワークスタイルも定着しつつある。

    同社いわく、都心のオフィス需要については不透明感があるものの、郊外におけるサテライトオフィス需要増の可能性が高まっているそうだ。そのような新しいワークスタイルの需要を取り込めるかがどうかが、成長の ”カギ” を握っていると言えそうだ。

    Text by Kakeru Miyoshi(@saas_penguin
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